7 7月
2021

ふたりぼっち

 緩やかに過ぎていくこの時間が好きだ。仙道が一つ仮面を取って(恐らく本人にはそんな自覚はないかもしれないけれど)、有りのままの声を聞かせてくれる。
 本当はいつだって仮面を取った有りのままの姿を見たいと思うが、それはもうちょっと時間がかかるかもしれない。焦らされてるとか、そんな感覚じゃなく、素直に楽しみに待ちわびている。自分がもう少し子供だったら寧ろイライラしていたかもしれない。それでも今はこんな風に楽しみにしていられるのは、きっと仙道のお陰。そんなことを思わせてくれる、この二人きりの時間。
 だけど、たまに卑屈になってしまうことがある。
「お前、また今日女子にコクられてただろ?」

 少し濃い目の、端正に整った顔が俺の動きに轟くのを見る度に、昂りは更に増す。俺の身体で、この顔が歪んでこんな声を出させていると思うと、たまらなく愛しい。これは一種の所有欲だ。
 が、その一方で勿体ないような気さえしてならない。今日、仙道に告白してた子はキレイな子だった。世間一般で見たら普通、くらいにランクされるかもしれないけど、仙道の横に並ばせたらきっととても似合うと思う。
 そう思うと、勿体ないようなそれから悔しく思うんだ。別に俺が女子に生まれてくれば、とかそんなことを思ってるんじゃない。ただ、言葉に表せなくてもどかしい、ちょっとマイナスな感情。
「うん」
 ベッドに横になって俺の愛撫を受けていた仙道が起き上がる。汗が目にかかったのか、目をこする。目を瞑っているために、長い睫毛が陰を落としより一層、仙道の魅力を引き立てる。思わずその頬に触れると、仙道は嬉しそうに笑いながら俺の手に手を重ねた。こんな時でも、やっぱり仙道の体温は俺より若干低い。
「勿体ないよな、キレイな子だったのに…」
 ぼそりと言うと、仙道は一瞬だけキョトンとした顔をして俺を見る。だけどすぐに笑うんだ。
「福田がいるのに、受けるわけにはいかないさ」
 どうしてだろうか。どうして仙道は俺が欲しい言葉を、言ってくれるのだろうか。動かない俺の手をゆっくり摩る。大丈夫だから、そんなメッセージを込もった仙道の手はあたたかい。
「福田?」
 名前を呼ばれてハッとなる。目の前には、行為の為に目を潤ませきった仙道が俺を上目遣いがちに見ていて。
「続き、やろうよ。…もっと、欲しいよ」
 掠れた甘い声を出す仙道の声。滅多に自分から欲を出さない仙道が求めてくる姿はやっぱり愛しい。仙道の手に更に自分の手を重ね、「分かった」と返事をすると、仙道は満面の笑みを浮かべる。
 ゆっくりと仙道を横に倒して、覆い被さる。
 唇を重ねるとすぐに仙道の舌が俺の舌に絡みつく。離さない、とでもいうようなその絡みはまるで一人を恐れるかのように感じた。
 普段人懐こい笑顔を浮かべる仙道は、どこか人とは違う空気を放っている。血の通ってる人間なのに、人間じゃないような。怖いものなどないだろう、と思っていた仙道にも恐れるものがあったのだ。それは孤独。
 なんでも一人でこなせる仙道は、本当は弱かったのだ。いつか口にしてくれる日がくれば良いと思う。それでも今はこういったサインだけでもとても嬉しい。そしてそんな姿を俺にだけ見せてくれる。仙道を好きになって良かった。
 俺だけじゃなく、仙道も素直になるこの時間。俺はこの時間が好きだ。

End
福仙の魅力に気づかせてくれた某友人へ送ったSS。
どのCPもそうだとは思うけど、この二人のふたりだけの時間ってすごく特殊な感じがする。

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