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7 7月
2021

Break Time

 さて、どうしようか。このムラムラしてきちゃった気持ちを。
 目の前には大学受験へ向けて、真面目に勉強に励む花形さんの姿。真剣なその表情はすごく格好良くて、見ていて何故か嬉しい。以前、花形さんにあなた程のプレイヤーなら、そんな勉強なんか要らないでしょうと言ったことがある。花形さんは県内有数のセンターだから、学校側も推薦してくれるだろうし、大学側からもバンバン声がかかってくるだろうから、勉強なんか要らないだろうと思っての発言だった。  が、花形さんからの返事はそりゃ長いものだった。
 眉間に皺を寄せた花形さんが発した第一言目は「馬鹿」
 何事も油断は禁物だ。だからのんびりしていられない。真剣な表情で、花形さんはそう言った。大学でもバスケを続けていきたい。相変わらず無表情だけど、強くて熱い眼差しで花形さんは勉強の大切さについて語った。こんな時に限ってオレは大きな欠伸を一つ。仕方ないじゃないか。生理現象なんだから。
 案の定と言うべきか、更に眉を潜めた花形さんの長い長い説教が始まった。いつもは花形さんの姿を見るだけで、和むことの出来るオレでも、流石に説教の類は嫌いだ。そして、また欠伸をしてしまったが為に、花形さんの説教が長引いてしまったことは言うまでもない。
 そんなこともあって、その日以来オレは花形さんの勉強中に茶々を入れなくなった。説教なんて真っ平ごめんだ。だけど花形さんの斜め前に座って漫画本を読みつつも、花形さんに下心を抱くオレは結構限界に近くて、その唇に少しだけでも良いから触れてみたいと思う。その一方で邪魔したら悪いなとは思う気持ちも勿論あるけど、「ここのところご無沙汰だったし。良いよね」なんて気持ちの方が大きくなって、オレは行動に出た。

「花形さん?」

 机の上に広げたノートから視線を外した花形さんが、ゆっくりとオレを見る。その静かな視線にさえ、オレの心臓はバクバクいってる。いつもはこんなこと無いのにな。

「どうした仙道」

 オレは花形さんに向けていた視線を、わざと薄暗くなってきた窓の外にやる。花形さんもつられたように窓の外を見た。横目で花形さんを見て、よし、と心の中で万歳。窓の外を見たまま、独り言のように呟く。

「暗くなってきましたねぇ…」
「あぁ、そうだな」

 こんなつっけんどんな返事も、オレのあと二言三言で甘い返事に変わるんだ。いつだってそう。どんな状況でも、まぁ、勉強の事に関しては無理なんだけど、オレの言葉で花形さんは驚くくらいに優しくなるんだ。そんなオレの心の中を花形さんは読み取っていて、その度に「お前には敵わないな」と言ってオレの髪の毛をクシャクシャにしながら笑う。その手が気持ち良いから、その手が早く欲しくて、それから思わず花形さんの返事の内容のことを先に考えて、段々と頬の辺りが緩んでくるのが分かった。やばいな、これじゃ変態じゃん。まぁ、良いけど。

 窓から目の前にいる花形さんに目を向けて、少し上目遣いがちに、出来る限りの甘い声で囁いた。こんな時のオレは、恋する乙女。なんちゃってね。

「…やろうよ」

 さぁ、なんて返ってくるか。
 滅多に緊張することのないオレでも、こんな時は緊張してならないんだ。でもそれを表情に出さないようにして、ジッと花形さんの瞳を、いや、口許を見つめた。ほら、やっぱり早く返事を聞きたいじゃん。
 一向に花形さんの口許が動かない。ただただオレのことを、無表情な顔して見つめているだけ。
 もしかして外しちゃった?おかしいな、いつものやり方なのに。
 視線を花形さんの口許から外して、フローリングに目をやる。駄目かもしれない。そう思って。
 しばらく互いに動かないままの時間が過ぎる。この状態は流石に辛い。冗談ですよとでも言って、早くこの場を終わらせよう。と思った次の瞬間、ぐいっと凄い力で引き寄せられた。
 床から視線を外して視線を真正面にやると、黒いシャツが鼻に当たる。花形さんのシャツだ。それから腕が背中に回されたことに気付き、ようやく、抱き締められたことが分かった。そのまま床に押し倒される。頭を打たないように、ゆっくりと。床に全身がついたと同時に、両腕を花形さんの背中に腕を回す。花形さんが、一瞬震えたのが自分の手を通して分かった。オレと同じように緊張してるんだと分かった途端、嬉しくて、胸の中がくすぐったい。

「勉強は良いの?」

 嬉しいくせに意地悪っぽく笑ったオレは、天の邪鬼。そんな天の邪鬼の返事に花形さんが嫌そうな顔をした。それから、呆れたように溜め息をついた。

「これだからお前は…。休憩も必要だろ。何事にも」
「休憩、ね」

 また意地悪っぽく笑ってみせた。少し呆れた表情ではあるが、花形さんも笑った。
 ゆっくりとした動きで花形さんの顔が落ちてくる。その動きにもどかしさを覚えて、花形さんの首を抱え込み一気にキスをした。力が入り過ぎていた所為か、ガチリと歯がぶつかり合ってしまった。結構痛い。だけど、このまま唇を離すのは惜しくもある。舌を差し出し、花形さんの口内に触れるとすぐに花形さんの舌も絡んできた。こうしてしばらく互いの唇を味わう。
 キスの間も、シャツの裾から花形さんの手が入ってきて、肌を撫で回す。鎖骨から突起へ。突起から横腹へ。そして、再び鎖骨へと手は動く。
 かなり気持ちいい。
 徐々に昂ぶっていく気持ちに耐え切れず、花形さんのベルトに手をかける。
 ふと、花形さんが唇を離し、苦笑した。もっとその唇を味わいたかったのに。

「彰はせっかちだな」
「だって早く欲しいから」

 言いながら花形さんの体からすり抜けてベッドに移る。ベッドに腰掛け花形さんの名前を呼ぶ。すると花形さんは、ゆっくりと立ち上がりベッドにと向かってくる。オレの前に立ちすくむ花形さんに、早くきてほしいから腕を伸ばす。花形さんにその気持ちは伝わったようだ。乱暴に押し倒され、シャツを脱がされる。だからオレも少し焦った気持ちになって、花形さんの服を脱がしにかかる。

「ん」

 花形さんがオレを黙らせようとわき腹を擦ったきた。弱いところなんだ、わき腹は。全身に電気が走ったように体が跳ねて、すぐにそこに意識を集中させる。そうしたらすぐに花形さんの手がオレのベルトに伸び、ズボンを開放して。
 花形さんらしい愛撫にうっとりしながら思う。この休憩がいつまでも続けば良いのにななんて、オレはきっと欲張りなのかもしれない。でもそう思わずにいられないほどに、花形さんのことが好きなんだ。

「花形さん、好きだよ」

 言葉は言葉にする度に言葉の価値は薄れていくという。女々しいって思われるかもしれないけれど、繋がっていたいと思うからオレは構わず伝える。けれども言った途端、挿入する為に指で慣らしていた花形さんが、指の動きを止めた。花形さんは何も言わずに自身をあてがうと、ゆっくりと入ってきた。答えを聞きたかったのに答えが貰えず、不安になる。でも不安以上に快感が強くて、喘ぎシーツを掴んだ。

「…あぁっ」

 オレがどんなに喘ごうと花形さんの口から、好きだという言葉を耳にすることはない。まるで放っておかれてる気がして寂しくなる。そんなことを考えていると段々と疲れてきて、意識がぼんやりとしてくる。性欲は解消できかけている。それでも…。

「彰…」

 久しぶりに聞いたような気がする花形さんの声。そちらに顔を向ける。何?って、そんな視線を向けると、花形さんは確かに言った。

「不器用でゴメン。…好きだ」

 滅多に聞けることのない花形さんの本音に、オレは心からこの人を好きになって良かったと思えた。

End


仙道より背の高い攻めって、魚さん以来…!?