7 7月
2021

Cat※R-18

 怒られたことがある訳ではない。なのに、仙道に触れることが出来ない。
 別に仙道に好き勝手触れたからって、仙道が文句を言うことはないだろう。むしろ、あの曖昧な笑みを浮かべて、何か一言二言言葉を紡ぐだけだろう。それどころか、甘えるように笑って、キスをせがんで。その後は……。
 だけど、触れたら逃げるような気がして、やっぱり触れることが出来ない。そんな仙道はまるで猫のよう。おっとりしているように見えて、気まぐれな猫はどこまでも気まぐれ。時に人恋しくなったのか、近づいてくる。また、時にプイッとよそを向いて暫くこっちを向かないことさえある。それが本物の猫なら良い。
 しかし、相手は仙道。人間相手だと話は別だ。

 飼い猫を膝にのせ、時に猫に話しかける仙道。仙道の飼い猫なんだから懐いて当たり前なんだけど膝の上の猫に、軽い嫉妬心を抱きながらも訊く。
「その…、触ってもいいか?」
 一瞬だけ驚いた顔をした仙道は、すぐに笑う。お決まりの質問に、お決まりの返答。
「いつも訊くね、それ。オレ、そんな触りづらい?」
 図星をつかれたオレは、思わず黙り込んでしまう。いつもそうだ。図星をつかれてしまうと、思考回路が停止してしまうんだ。
 どうして触れないんだろうと少し考えてみる。
 越野や植草、一年年下の相田なんかは、遠慮なしに仙道に触れる。例えば試合で仙道が、シュートを決めた時。最高のところで仙道はシュートを決め、陵南に貢献するのはとても喜ばしいこと。だから、オレだって触れれば良いのに、触れることが出来ないのはあの雰囲気のせい。
 人懐こい笑みが嫌いな訳ではないけど、苦手だ。それは初めて会った時から変わらないし、今も同じだ。
 昔から自分は、猫が苦手だった。気ままで、人懐こい仙道と、自分で言うのもなんだけど生真面目で無愛想なオレとは正反対だから、余計に苦手な意識が強くなったんだと思っている。そんな相手とまさかこんな関係になるとは、なんとも皮肉なことだ。
 ふと、クスッと笑う声が聞こえてきて、仙道が顔を覗き込んでくる。猫は気まぐれに仙道の膝から降りて、さっさと自分の思う場所へと向かっていった。
「ダメって言ったらどうする?」
 こんなことを言い出すのも、まるで猫。ニコニコと意地悪い笑みを浮かべて、相手の機嫌を伺う。振り回されるのも楽しい。だけど、たまには違った態度で出てみたら、一体どんなリアクションをするだろうか。
「じゃあイイ」
 プイッとよそを向くその時に、仙道が面白いくらいにポカンと拍子抜けた顔をしていたのが目についた。
 さぁ、どうする?好奇心と、少しばかりの申し訳なさを胸に、意地悪小僧みたいな気持ちになって、横目で後ろを伺ってみる。
 するとどうだろう。上着の裾辺りが重くなり、すぐに温かい感触が首筋に触れる。裾を掴み、額を首筋にあててるんだって分かった。
「ごめん、冗談だよ」
 仙道の声が、いつも以上に甘えた声で心臓が高鳴る。温かい感触が耳に触れて、身体が硬直してしまう。嫌なやつだ。なんとか身体を動かして振り返る。
「お前のこと、よく分かんねぇ」
 言いつつ、仙道を抱きしめる。しどろもどろに仙道が、背中に腕を回してきた。今まで何事にも動じなかった仙道が、小さく見えて、そして可愛く見えた。そうなると、もう言うべき言葉は一つしか残されていない。
「だけど…好きだ」
「だけどって」
 ようやく、吹きだすように笑った仙道の白い頬にキスをする。目が合うと仙道がはにかむように笑うその姿が、純粋に可愛いと思った。もしかしたら、仙道の事をこんなに可愛いと思ったのは、初めてのことかもしれない。

 行為の途中、仙道が飼っている猫が少し開いた扉をすり抜けて入ってきた。ベッドに上がってくると仙道に懐く。どうやらお腹が空いたらしい。すると行為は中断され、仙道は猫に餌を与えるために、素っ裸のまま部屋をあとにした。
 チクショウ、やっぱり猫は苦手だ。
 でも、こんな気まぐれな仙道を、もし飼い慣らすことが出来たら楽しいのだろうか。そんなことよりも、これからも奴と一緒にいたいという気持ちの方が強い。
 甘える声も、悪戯な笑みもこの手にあるなら良い。そんなことを思いながら、部屋に戻ってきた仙道に行為の再開をせがるため、仙道の耳たぶにかじりついた。
  
End


ラブラブ福仙。

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