30 6月
2021

ジャランジャラン

だいぶ前に書いた仙道と宮城のちょっとしたショートストーリー。
息抜きに書いたものです。
書いてて楽しかったです🤗

散歩って良いよな。
 ほら、嫌な気分とか、ゴチャゴチャした気分も御天道様に当たりゃ、そんな気分もどっかに吹っ飛んじまうんだ。たまに500円玉とか見つけると、そりゃもう得した気分になる訳で。大体オレが散歩する時にゃあ、一つ二つは良い収穫をして帰る。

今日も何か良いもの獲得してやるんだって意気込んで出てきたのは良いけど、今日に限って未だに収穫ゼロ。今までこんな事なかったのによ。今ではもう帰り道へと足が進んでいる。何かよく分かんねぇけど、妙に焦ってきて辺りをキョロキョロと見渡すオレはまさにバカ。
 キョロキョロと見渡しても、特に何もなく肩を落とす。今日はついてないんかな。そして、ついには誰でも良いから何かくれよ、と訳の分からない事を考えてしまう。

 そんな時急に肩をトントンと軽く2、3度叩かれた。条件反射で振り返るとソコには、普段見慣れない男がそこに立っていた。常に笑顔で何を考えているのか分からない、それでもバスケットボールを持たせれば物凄い力を発揮する、そんな陵南バスケ部・エース仙道だ。振り返ったと同時にブニッと仙道の指が頬に当たる。いてっ。痛みに顔を歪ませるオレを見た仙道は、嬉しそうに「引っ掛かった」と笑った。
 腹の立つ行為ではあるが、ずっと収穫物の事ばかり考えてたオレは何故か仙道を見た途端に、「コイツが収穫物か?」だなんて考えてしまった。
 だけどやっぱムカつく。肩から仙道の手を払い除けると、睨むように仙道を見上げた。オレよりずっと高い仙道は丸い目をしてオレを見下ろした。別に仙道がワザとそうしてるって訳ではない。ただ、仙道の方が背が高いから自然とそうなる訳で。こうなると、まるっきりオレの威厳はない。オレだってもっと身長欲しかったな、チクショー。悲しくなってオレは溜め息をつく。

「どうしたんだよ、仙道」

 挨拶もままならないままオレは仙道に尋ねる。自分に何の用だと。

「何でキョロキョロしてたの?めちゃ挙動不振で面白かったよ」

 オレは思わず右肩をガクッと落とした。会話が噛み合ってねぇ。何なんだ、コイツは。訳分かんねぇよ。そう思ったと同時に、コイツにはあまり関わらない方が良いような気がして、何も言わずに仙道に背を向け歩きだした。厄介ごとには関わるな。そんな本能が働いたんだ。しかし仙道の方が強かった。

「あっ、宮木。待てよ」
「!?」

 ちょっ。待て、おい。コイツ何て言いやがった?宮木?コイツは、仙道はただのバカじゃないのか?ポジションは違ったけれど、同じコートの上で戦った仲ではないか。それなのに、仙道は…。
 怪しむ様なオレの視線には仙道は全く動じることも、ましてや怪しむ事もなく笑っていた。

「散歩しようよ、宮木」
「……はい」

 何だか逆らわない方が良いような気がしたんだ。これ以上変なことにならないなら、少しの時間くらいコイツに縛られても良いやって思った。
 隣でニコニコ笑う仙道を見て、コート上の仙道はもしかして双子の一人なんじゃないだろうかと本気で頭を悩めた。それならオレの名前を間違えたことにも理由は、まぁつく。
 そんな悶々とした気持ちを胸に、ゆっくりとした足取りで春の陽気の中歩く。街外れの小さな河川敷の方へと、ゆっくりゆっくり。眠くなってきて欠伸を一つ。眠たくてぼんやりしていると、もっとゆったりした声が聞こえてきた。

「キャプテンって大変なんだねぇ」

 仙道がポツリと呟いた。あぁ仙道だったんだな、コイツ。一瞬でも仙道ではないからオレの名前を間違えたんだと期待した、あの時の気持ちを返してくれ。そう思ったが、もう遅い。諦めの気持ちの方が強くて、オレは少し無愛想な感じになりながら返事をした。

「そーか?」
「だってサボったら監督に説教食らうし」

 間違いねぇ、コイツは仙道だ。紛れもなく。

「…たりめぇだろ。お前よくキャプテンになれたな。まっ、分からんでもねぇけどな」
「そうかなぁ」

 本当によくこれでキャプテンになれたモノだと、オレは心の奥底から感心した。確かにコイツは県内有数のプレイヤーだ。いや、全国と言ってもいいのかもしれない。それはオレも認めているし、仙道がいる陵南は脅威だと言える。
 だけど、しかしだ。
 普段がこんな得体の知れねぇ、抜けた奴がキャプテンなんかやってて良いのかよ。陵南の奴らはさぞかし苦労してんだろうな。特にあの生真面目そうな越野なんか、常にイライラしてそうだよな。若いのに気苦労なヤツ。

「宮木ぃ」
「はいはい、今度は何?」
「タンポポ、キレイだねぇ」
「あ?」

 越野だとか、陵南のヤツらの苦労を思いながら外を歩いていた為、急に目の目に広がる黄色のじゅうたんに驚いて少しあとずさる。いや、タンポポが辺り一面に咲いていた。正確にいうと所々なんだけど、それでも眩しいくらいの黄色いそれ。
 その光景を見て、オレは息を飲んだ。あまりにも綺麗なそのタンポポは見ずにはいられない。そんな光景だ。
 仙道が、タンポポを前に「よっこらしょ」と言いながら腰を落とす。
つられてオレも、「よっこらしょ」などと滅多に使わない言葉を発しながら座る。
座って見ると、益々タンポポの一輪一輪の美しさが目に映る。タンポポって思えば雑草なんだよな。
雑草なのにこんなにもキレイに咲く花。
いつも見ていた筈なのに、初めて見たような気持ちになって、オレはいつまでもタンポポを見つめた。

「宮木」

 呼ばれて仙道の存在を思い出した。仙道は手に何か持っていて、それをオレに差し出す。何も言わずに受け取った。それは、仙道がたった今作った直径30センチ程のタンポポだけで作られた輪っか。

「何だこれ?」
「ん?お姫さまが頭に乗っけてるやつ…。あっ、ほら冠ってヤツ」

 オレは唖然と仙道を見た。こんなの作ってどうすんだ?「お前、器用なんだな」と言いながら、それを返そうとすると、仙道は手で止めた。返さなくて良いというポーズ。困っていると仙道は少し首を傾げて言った。

「それは、今日散歩に付き合ってくれたお礼。だから受け取ってよ」

 ふざけているんじゃないのか、と一瞬考えたが、さっきの仙道の事を考えると、これも素なんだろうと思い当たった。こんなのどうすれば良いんだと思ったけど、返すのも悪いと思って、オレは素直にタンポポの輪っかを頂く事にした。

「あ、ありがとな」

 ぎこちなくお礼を言うと、仙道の顔に笑みが広がる。

「どういたしまして」

 そう言った仙道の顔は少し自慢気だった。ぼんやりとタンポポの群れを眺めていたのは良いけど、流石に飽きる。仙道も飽きたんだろうな。オレが帰ろうかって言うと、首を縦に振った。

 仙道とは途中から正反対の道になる。別れる際に、オレは「ありがとな、また会おうぜ」と自然と口から言葉が出た。仙道も驚いたみたいな顔してたけど、「あぁ」と笑った。

 帰り道、オレはタンポポで出来た輪っかを見つめて自然と口元が緩むのが分かった。だって、この輪っか、マジでよく出来てるんだ。しっかりと丁寧に編み込まれててさ。それをあの190センチもあるデケェ男が、チマチマと作ったと思うと、可笑しくてならねぇ。
 それに、オレの為に作ったって事だろ?
 良いトコあんじゃねーか、アイツ。そうだ、今度オレの散歩オススメスポットでも教えてやるかな。
 今日バッタリと会った時は仙道が疫病神にしか見えなかった。あんな訳の分からない奴と、折角のお散歩タイムを過ごすハメになるなんて勘弁してくれよって。それなのに今では仙道と次会うことが楽しみで、そう考えるオレの心は温かく晴れている。
 仙道彰。良いダチになれたら良いな。

End

*
ジャランジャランの意味は、インドネシア語で「散歩」の意。
ジャラン一つで「道」という意味だそうです。

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